システム薬学研究機構の会員による意見欄です
2011年2月11日
「薬剤師に異例の損害賠償」について
患者を守るのは、医師でも看護師でも薬剤師でも、多くの医療従事者でもありません。
自律した医師、自律した看護師、自律した薬剤師、自律した医療従事者、それら全員のチーム医療だけが患者を守ることができます。
2月11日の各種新聞報道によると、国家公務員共済組合連合会が運営する東京の虎の門病院で2005年に起こった医療事故で東京地方裁判所が、
国家公務員共済組合連合会と担当医師(臨床経験3年目の研修医)そして3名の薬剤師に2,365万円の損害賠償の支払いを命じた。
医療事故を医療過誤と認定し、運営主体と医師だけでなく薬剤師にもその責任を認めている。
裁判所の認定によると、患者は肺がんで入院していた2005年10月、併発した肺炎の治療薬ベナンバックス(一般名:ベンタミジン)
を通常の5倍量、3日間投与され、10日後に死亡した。過剰投与という医療過誤は容体悪化に疑問を感じた看護師によって発見されたとのことである。
各種新聞は「薬剤師に異例の損害賠償」という点に注目している。3人の薬剤師の一人は調剤役、二人はチェック役であった。
薬剤師法23条は医師の処方箋による指示がなければ薬剤師は調剤できないと定めるとともに、24条は「処方箋に疑わしい点があるときは、
医師に問い合わせ、疑わしい点を確かめた後でなければ、調剤してはならない」と定めている。
判決は「ベナンバックスは劇薬で重大な副作用を生じることがある。5倍量だったことを考えると、薬剤師は指示に疑問を抱いて担当医に確認する注意義務があった」
として薬剤師の医療過誤を認めている。
判決では担当医師を指導する立場にあった主治医と内科部長への過失(監督責任)は認めていない。法律上の責任はないが、法律だけが社会規範ではない。
主治医や内科部長、さらには医師である病院長は「薬剤師が自律的に医師の処方箋の疑義を指摘できる医療環境作り」を進める義務はあった。
一方、薬剤師も臨床専門家clinicianとして、自律的に行動し、患者を守る義務がある。
アメリカでは1999年12月のレポート「人は間違いを起こす To err is human」が「医療ミスで毎年98,000人が死亡」と指摘したが、
その傾向は今も改善されていない(NEJM 2010年11月25日号)。日本も同様の傾向ではないかと危惧する。薬剤師をはじめ、自律した医療従事者によるチーム医療こそが、
医療行為に伴う患者被害を救う。
[情報源]
毎日新聞、朝日新聞、日経新聞
2011年1月25日
「薬剤師とは何か、そして薬剤師は何をするのか」について
“What Are Pharmacists, and What Do They Do?”
この問いかけは古くから医療専門家としての薬剤師が自問してきたことです。Gonzalezさんはこの問いかけを表題にした論文を2005年に発表しています。
その結論部分を以下に示します。ただ、この答えは最終点ではなく、これからも長く“What Are Pharmacists, and What Do They Do?”という問いかけに
答えていくための出発点だと考えています。
薬剤師とは何か、そして薬剤師は何をするのか。この答えは以前よりは明確になっている。薬剤師”pharmacists”は治療専門家”clinicians”である。
われわれは医療システムにおいて薬学サービスのための戦略的な計画を立案する必要がある。それには5つの核になる医療サービスが含まれる。
薬剤情報の管理、副作用事象の管理、入院時の薬剤履歴管理、医療回診への参加、そして薬剤プロトコールの管理であり、
それらは望ましい治療結果を得ることに深くかかわっている。「臨床治療の」という言葉”clinical”はギリシャ語の「ベッド」を意味する言葉
”klinikos”からきている。われわれはカウンターや計算機端末の後ろに隠れていないで、前に出なければならない。そして、患者の横にいなければならない。
彼らはわれわれの専門的な手助けがなければ亡くなっていってしまう。特に、われわれは患者やその家族など医療サービスの消費者や規制機関と交流し、
その意見を聞き、そして彼らに話しかけなければならない。そのことが、薬剤師として、患者に最適な薬剤を調製し、患者の急性あるいは慢性の疾患に伴う負担を防ぎ、
軽減することにより、彼らに薬剤師の役割を教えることになる。これらのことを行うことにより、「薬剤師とは何か、そしてわれわれはは何をするのか。」
ということを他の医療専門家に知らせるだけでなく、われわれ自身の薬学専門家グループにも知らせるうることになる。
[参考論文]
What Are Pharmacists, and What Do They Do?
Luis S. Gonzalez, III
American Journal of Health-System Pharmacy. 2005;62(19):2039-2040
みなさんからの御意見をお待ちしています。